足が痛い愛犬に鍼治療。施術内容とその効果について。

飼い主と愛犬が鍼治療しているイラスト

愛犬(ゴールデンレトリーバー7歳♂)が散歩中に足をくじいて、一時寝たきりになってしまいました。病院からもらった痛み止めで、立てて歩けるようになったものの、すぐ足を浮かしてしまいますので、散歩も長くは行けなくなりました。

薬以外にできることはないか?と鍼灸の施術を始めました。今回は鍼の治療内容とその効果をご紹介します。鍼灸の効き方は個体差が大きいですから、あくまで一参考として頂ければ幸いです。

【※ちなみに鍼灸は飼い主が行っています。私は鍼灸は本職ですが、獣医師ではありません。動物への鍼灸の施術は獣医師のみが行うことができますあくまで、我が家の飼い犬に対してだけ自己責任で行っているものです。】

目次

鍼灸について

鍼灸とは

身体上にある「経穴(=ツボ)」に鍼を接触/刺したり、お灸をすえます。その刺激が生体の持つ「治す力」を活性化させることによって、病を治癒に導く療法です。

鍼灸発祥の中国では、古来より犬、ネコや家畜にも人間同様、「経穴」や「経絡」(経穴の通り道)があるとされていました。

鍼灸の治癒メカニズム

サン

鍼灸が効くしくみとは?

ツボ上に鍼灸の刺激(人為的なごく軽傷)を与えることにより、「体内の免疫機構の活性化を促し、治療でつけた傷とともに、元々悪い部分も一緒に治してもらう」ことを狙います。

血流を亢進させ、体内の痛み・疲労物質や毒素を排出し、損傷部位に栄養を与えます。

脳内の痛み抑制ホルモンの分泌を促します。

他にも様々ありますが、以上3つが大きいところです。特に、「神経系」「内分泌(ホルモンを生成し分泌する)」「免疫系」に作用が大きいことが多くの研究により認められています。

鍼灸を受ける際に知っておくべきこと(瞑眩症状)

(人間を例にとりますと)以下の方に「倦怠感」「眠気」「ふらふらする」「施術部位の痛み(一時的に悪化したような症状)などがあらわれる場合があります。

これらを『瞑眩(めんげん)症状』といいます。瞑眩症状が出る原因は、以下のパターンがあります。

鍼灸の施術が初めて/久しぶり

年齢

デリケートな体質

鍼灸に恐怖感あり

数日前~前日に十分な睡眠/食事がとれていない

疲労/痛みの度合いが激しい時

病が重症         など

瞑眩症状は、「病が好転に向かう時に訪れる好的反応」として出現するものが多く、東洋医学では決して「=100%悪いもの」とは捉えていません。実際、瞑眩症状が出た後に症状が回復する例はとても多いのです。

とはいえ瞑眩症状が強くでると辛いです。初回は、ご年齢や体質をしっかりと鑑みた診察・施術を行う必要があります。

施術後も、運動、飲酒、多食、長風呂を避けてできる限り安静に過ごします。(なるべく施術前も同様に)

動物に行う場合、瞑眩症状が出るとすれば人間とどう違うのか。

ひろ

人間と比べて、反応が良すぎる気もするし、鈍感な気もするし

人間の場合、施術量を決定する際に手首や頸部の脈を診て、施術前に大まかな体質をつかみます。また、術後に再度確認して、変化を診る意味でも重要です。

犬は鼠径部の脈で診断するとのこと。舌診や腹診もあるのでしょうが、そこはまぁ、今後勉強していくとして…。

愛犬サンは、子犬期も鍼の経験はあるのですが、現在は7歳で鍼は久々。多少神経質なところもあるため、そこを充分に考慮し、始めは1~2本を短時間(刺してすぐ抜く)、一番細い鍼で行いました。

今回愛犬に行った施術内容

犬の下腿解剖図
鍼の写真
2種類の鍼を使用

上の写真が、サン(愛犬)に使用した鍼ですが、右は、【長さ3㎝、太さ0.14㎜】、左は【長さ3.9㎝、太さ0.16㎜】です。もちろん、この長さ全てを体内に入れるわけではなく、数㎜程度です。

愛犬が鍼灸をやるようになった経緯

足を痛くて浮かせる愛犬
事故近影。立位で3本足に。

診断は「中高年による股関節形成不全」で股関炎。今現在は大きな問題はないが、関節のはまりが少し緩いので、関節炎の悪化や、亜脱臼を起こす可能性もあるとのこと。

先生と相談して、今の時点では保存療法(手術をしない)で様子をみることにしました。

事故後、2週間ちょっと、痛み止めを頂きました。薬は「長期服用しても安心」なものだとか。とはいっても、調べてみると、長く飲み続けるとやはり内臓に負担がくるケースもあるとのこと。

できれば長くは飲ませたくはない…。お薬のおかげで、立位もとれ、家のトイレで排泄もでき、短い散歩にも少歩けるようになっていました。

先生も、一旦やめて少し様子をみますか、と。飼い主も我がままなもので、そうなれば、また不安になります。せっかく薬で良くなってきたのに、また逆戻りするのではないか?

ひろ

また痛くなったらどうしよう…永遠と薬ってことになったら…

案の定、薬をやめて翌日~3日間は少し悪化しました。このままいつまで薬を飲ませるのか…というモヤモヤを前に、鍼をしてみるか、と腰を上げたのかきっかけです。

(獣医師の先生にお願いしたいところですが、私の県ではまだ犬に鍼灸をする先生はいらっしゃらないです。これから増えていくことを期待です。)

それから犬の解剖学、経穴図を学んで、いざ!(内臓の位置や太い神経・血管の走行を把握しない施術は、当たり前ですが相当危険です。)

鍼治療の実際

治療前

横寝で足が伸ばせない愛犬
横寝で患足を伸ばせない。

サンは事故後から2週間ちょい痛み止めを飲み、今までの生活の5分の1程度まで回復しました。

立てなかった状態から、家の中は足を引きずるか、3本足で移動できる、外出も何度も休憩しながら数10m~1㎞未満の散歩ができる程度でした。

横寝をすると、上記の写真のように曲げて伸ばせない、立位も3秒と足を床についていられない状態です。

では、施術していきます!

治療中

刺鍼中のアップ写真
まず股関節周辺に刺す
股関節に鍼を刺入する写真
逆向きに見るとこの位置です

乗せている治療の写真は、4回目以降のものです。初回は2本だけ一瞬の刺鍼。人間よりも大分肉が薄いので、刺入の深さに要注意します。初めは3㎜程度から。

サンが動きそうものなら、パッと抜きます。彼も神経質な割に、意外と鍼は大丈夫でした。ただ無痛でないと、やはり「ん?」と見てきます。危ない、危ない…。

ひろ

鍼灸師は「寝ているネコに気づかれずに刺せたら一人前」といい、私もサンを迎えた時、練習させてもらいました。

サン

頭に何か刺さっとる

一回目に坐骨(骨盤)と大腿骨あたりに刺鍼した際、一瞬股関節を伸展させ、足がグッと伸びました。これを良しとして、終了です。

治療直後に歩いた際、足の浮かしが強くなった印象です。少し痛がっている感じ。気にはなりましたが、股関節周辺は筋肉が薄く、大きな神経や血管もあり、刺激にデリケートです。

施術直後は人間にも同様の症状も多いので、まずそのまま就寝させました。(1時間後の就寝前には回復しています)

治療後

治療後の愛犬の様子
初回直後、足少し伸びた感じ。ぼ~としてる
治療して1週間、足が床につくようになった
1週間後。足がつくようになってきた

鍼は血行が良くなり、身体も緩むので、治療後は「お風呂上り」のような、ぼ~とした気持ちよさを感じます。サンも少しそんな感じでした。

翌朝、起き掛け直後の足の状態が良いです。起き上がり、歩行ともに前日よりスムーズ。床に足がつく時間も少し長くなった印象。効果ありとみて、3日連続で鍼治療を行いました。鍼の長さ、太さはそのまま、本数を5本程度に増やしていきます。

次々に鍼を刺していく写真
 どんどん刺していく

3日間鍼をやってみて、まず確実に悪くはなっていず、足のつきも良い。横寝でも足を伸ばしている時間もありました。この3日間は「薬を飲まなくても、飲んでいた時と同様」といった印象でした。目に見えて良くなっているわけでもなく、維持と言った感じです。

2日開けて、4回目です。鍼の数・太さ・長さを変えて施術。少し刺激量を上げます。腰椎から坐骨神経を意識して、ふくらはぎにも刺鍼です。時間も刺入後、10分程度置きます。

鍼を始めて1週間で「これは確実に効いているな」と感じました。大きくは、散歩時間が大分長くなりました。30分コースの散歩も休憩1回で行けるようになりました。(以前は10分コースを休憩2~3回という感じ)

2週間目で1時間コースを休憩1回で行けるようになりました。休憩時間も、以前は10分くらい休んでいましたが、5分以内で自ら歩き出します。

ただ事故前に比べると、まだまだです。もちろん走ることはできませんし(走らせてもいませんが)、速足だと3本足になることもあり。疲れると床に足を浮かせがちです。

私としては、薬なしでもここまできたことに満足であり、贅沢を言わず、ゆっくり治していこうと思っています。

治療中に寝てしまう愛犬
数日後には慣れてきて寝てしまう

数回も続けていると、サンも流れがわかってきます。施術中は安心しきって寝ております。鍼灸は不安があると緊張してしまいますが、慣れてしまうと副交感神経が優位になり、リラックス効果◎です。

東洋医学は治療医学でもありますが、第一に「予防医学」です。整形疾患だけでなく、内臓や脳にも効果がありますので、これからも勉強し続けていきます。

犬に対する鍼治療のメリット、デメリットの考察

愛犬に治療する飼い主

メリット

私が今回の鍼治療で、有効と感じたところ、メリットと思ったところが以下です。

飼い主微笑吹き出し

薬を飲ませなくても悪化しなくなった(むしろ良い方向に向かっている)

足を床につく時間が長くなった

散歩に1時間行けるようになった

サンのイライラが減った

飼い主とのいいコミュニケーションタイムになった

薬を飲ませなくても悪化しなくなった…この事が大分飼い主の不安をやわらげました。お薬は本当に有難いですが、長く続けるとなると不安な面もありました。

足を床につく時間が長くなった鍼後、1週間くらいで目に見えて足が床につく時間がのびました。

散歩に1時間行けるようになった…これが一番大きいです。サンの足も回復に向かっていた背景があったかもしれませんが、鍼の恩恵もあったと思っています。

サンのイライラが減った…怪我後~2週間の彼のストレスは大きかったです。一日中、前足をペロペロなめ続け、少し反抗的になりました。

「散歩に長く行けるようになった=ストレスが減った」ことが大きいと思いますが、鍼には副交感神経を優位にしてリラックスさせる効果もあります。また睡眠も良質なものに導くので、そのことも多少あるかな?

飼い主とのいいコミュニケーションタイムになった」…サンはイライラもしていましたが、それ以上に気持ちが落ち込んでいました。

一人でいるのを不安がり、甘えが強くなったり、トイレを失敗したりと、少し幼児化しました。治療は思ったよりも嫌がらず、むしろ飼い主とのコミュニケーションに安心するようでした。人間の子どもと一緒ですね。

これは私の感覚なのですが、「飼い主が、自分の痛い所に(よくなるため)何かしている」というのをよく理解していると感じます。

時折、鍼がチクっとすると嫌がりましたが、それでも逃げることなく、自ら横たわるなど、かなり協力的でした。(横寝で治療していました)もちろん、鍼でなく、マッサージでもですね。

デメリット

対してデメリットといえば、やはり瞑眩症状でしょうか。

サンも初回あたりは、鍼直後に少し足の浮かしが強くなったりといったことがありました。サンがどう感じた/思ったかは…?ですが。

人間であれば、きちんとした説明なしでは、やはり不安になられるでしょう。よく「鍼は、人によって合う・合わないがあるのか」と聞かれます。

私は、合う合わないということでなく、「その時の症状・体質に、治療の刺激量/内容が適切であったか」がかなり重要なところだと思っています。刺激量が多ければ、副反応が出る可能性も大きいですし、少なければ効果がないのかと思ってしまうかも。

ただ、鍼灸の施術は完全にオーダーメイドなので、先生の治療方針によって「瞑眩症状を狙って治す」「少ない刺激で時間をかけて治す」といったような治療方針なのかもしれません。一概に言えないところです。

何よりも、全面的に信頼でき、難解に感じてしまう東洋医学の説明もしっかりしていただける先生に出会えるのが一番です。

あとは、実際受けられるとすれば治療費がなかなかの…といったところでしょう。治療回数は大抵、週1が平均的のようですが、やはり症状によっては、回数を多く受けた方が効果的な場面も多いと思われます。

【愛犬にお灸。施灸方法、注意点など】

最後に

散歩に行く愛犬
疲れるとまだ足を浮かせるが、散歩も長く行けた

今回の結果、サンには鍼をして良かった、著効したと私は感じましたが、鍼灸は先生によってやり方も違い、個体差によって効き方の違いも大きいです。ですから、決して気軽に鍼をおすすめしたいということではありません。

というのも、施術自体はそのわんちゃんに合っているものであっても、わんちゃんが鍼灸に対して恐怖心を持っていてば、逆効果に出ることがあります。

また、患部をいじられること自体にストレスがあるような場合でも、いい結果が出ない場合があります。人間であれば、「痛い」「イヤダ」と伝えることができますが、わんちゃんでは…。

もし、東洋医学に興味ある飼い主さんは、わんちゃんの前に一度、ご自身が施術を受けられて、鍼灸がどんな感じなのか、その感覚を体験できればベストかと思います。

いい先生に出会え、わんちゃんが早く、少しでも元気になられることを祈っております!

ひろ・サン

早くまた可愛い笑顔が見れますよう!

目次